「ハート・ロッカー」「ゼロ・ダーク・サーティ」のキャスリン・ビグロー監督作品。この2作と同じく事実に基づいた作品。今回のテーマは1967年に起きた「デトロイト暴動」と、暴動のさなかにアルジェ・モーテルで起きた事件。
デトロイト暴動では警官や州兵に対する狙撃があり、警官たちはピリピリしていた。そんな中、アルジェ・モーテルにいたカール・クーパーは自分たちがふだん白人警官に厳しく当たられていることへのちょっとした仕返しとして、持っていたスタート合図用の模擬銃を撃つ。もちろん実弾は出ないが、警戒していた警官や州兵は発砲元であるアルジェ・モーテルを取り囲み、もともと存在しない「狙撃手」探しを始める。
いきなり事件に突入するのではなく、デトロイト暴動の発端となった無許可酒場でのパーティーの摘発から入り、事件時にアルジェ・モーテルに居合わせることになった「ザ・ドラマティックス」のボーカル、ラリー・リードとフレッド・テンプルがなぜその場にいたかという経緯や、事件で3人を殺害することになる警官たちや、現場に駆けつけて射殺された1人目の被害者を見つけることになる警備員のディスミュークスの掘り下げを経て、事件そのものに迫っていく。警官、特にウィル・ポールターの演じたフィリップ・クラウス(実在の複数の警官をモデルに作られた架空のキャラクター)は最初から黒人に対する差別意識が強く描かれていて、悲劇的結末へまっしぐら。
「スター・ウォーズ」では副主人公のフィンを演じているので、なんとなく「正義の側」というイメージで見てしまうジョン・ボイエガだが、ディスミュークスは黒人でありながらも警備員なので警官や州兵に近い立ち位置にあって自衛のための銃を持っており、黒人たちが疑われてもそれを積極的に助けようとはしない。州兵もクラウスたちの蛮行を止めはしないし、ミシガン州警察に至っては「デトロイト市警はイカれている」とわかっても、黒人の人権問題は面倒だからと引き上げてしまう。どこまでも胸糞の悪い現実。
しかも、このアルジェ・モーテルの一晩を「こんな悲劇があった」として描くだけではない。その後の裁判で、陪審員も判事も白人という中、警官たちは無罪となる。ラリーはメジャーデビューのチャンスを得るが、「白人が踊るための音楽は嫌だ」と、ザ・ドラマティックスを抜けて聖歌隊に入る。あまりにも無情。ディスミュークスも、被害者たちを助けられるような立場になかったのは事実で、その点では加害者側に属するわけではないのだが、脅迫を受けて別の町へ移住している。どこまでもどこまでも、辛い。