ヨタ話

無名アニ関民のアニメ&映画ライフログ

リアル鬼ごっこ(2008)

 @テアトル梅田 テアトル2
 原作未読。
 主人公の翼がヤンキーグループにからまれて殴られそうになったところ、リアル鬼ごっこの行われているパラレルワールドに突然飛ばされて事情も飲み込めないまま元の世界では対立していた洋に助けられる形でこの狂ったゲームに巻き込まれ、いきなり目の前で女の子が殺害されるところを目にするというかなり衝撃的な導入部。そこからパラレルワールドで妹の愛や父・輝彦との出会い、元の世界での半分植物人間のような状態の妹の危機、だんだん符合していく元の世界とパラレルワールドといったあたりは息もつかせぬスピーディーな展開で、設定を考えればおかしな点があるのだがそういうのをほとんど気にさせない作りになっていた。一週間のリアル鬼ごっこが終了し、それと同時に愛が捕まってしまったというところまでは100点ではなくとも90点はいける出来だった。
 ところが、ここでストーリーの進行速度は一気にゆっくりになる。テレビ局でアナウンサーを人質にしたり、テレビを使って王様と交渉したり、どうしても勢いが止まってしまうところがあった。進行速度が落ちるとちょっと設定をかみ締める時間も出てくる。スクリーンでは翼が元の世界の愛を救うことで、表裏一体となっているパラレルの愛を救おうとしていたが、なんかそれっておかしくないかと疑問を持ってしまうわけだ。医者から愛を救い、かつ翼も救われるためにはどうなるのかとラストには期待したが、まさかの更なるパラレルオチ。かなりガックリときた。後半は赤点モノである。
 元の世界(世界A)で人が死ぬとパラレルワールド(世界B)でも人が死ぬってなんじゃい、とか、あの程度の力で王国は作れないんじゃないか、とかそういう背景として組み込まれているものには突っ込まないとしても、「Bで危なくなった愛を救うためにAの愛を助ける」という翼の理屈(とそれで本当に助かってしまう展開)だけは引っかかった。作中の説明では世界Aと世界Bの人物は環境が違うから性格などは変わっていても本質は同じで、片方が死ねばもう片方も死ぬとなっていた。劇中では世界Aの愛が医者に殺されかけていて、世界Bの愛もまた王様(これは医者のパラレルでの姿)に殺されかけている状態で、愛Aのギリギリの窮地を救ったから愛Bを殺そうとしている装置が停止という流れだったが、世界Bの装置に干渉するようなものは何もなかったわけで、本来は愛Aのピンチは救ったが愛Bは装置によって死亡してしまいやはり愛Aも死亡となるはず。
 また、これはラストだから深く考えてはいけないのかもしれないが、「佐藤翼という人間は世界Aにいた母(パラレルトリップ能力者)が世界Bにトリップしてそこで生んだ子で、その後母とともに世界Aに戻ったから一人しかいない(世界Bにはいない)」ということだと、ラストに出てきた戦乱の世界Cにはまた別の佐藤翼がいるのではないかという疑問。愛Cが愛Aから翼のことを聞かされていた節もあるし、世界A、Bで死んだ人間は世界Cにはいなかったし…。あとお約束として国外がどうなのかは気にしてはいけないんだろうな。
 と、引っかかったところはあったが、アクションはなかなかどうしてよくできていた。最初のヤンキー戦で翼の身体能力の高さを見せておいて、鬼ごっこ内でもしっかり生かしているのは非常に良かった。また、建物内でも離れていても必ず佐藤さんを見つけ出せる佐藤GPSを持ちながらもイマイチ鬼がマヌケだったのが中身は囚人がやっているということでなんとなく納得できたりもした。そして何より重要なのは、主人公があまりいい子ではないのに不思議と感情移入しやすいキャラになっていたこと。最初から翼と一緒にリアル鬼ごっこをやってる世界に巻き込まれて戸惑うことができたので、リアル鬼ごっこという荒唐無稽なゲームでも洋の説明を一緒に受け入れられた。そして、個人的にはストーリーがたとえ破綻していようと勢いで魅せる作品というのも嫌いではないので、前半のスピード感は評価したい。
 作品内の世界に入り込める人や、ストーリーの整合性よりも勢いのある映画が好きな人にはオススメしたい。ちょっとグロテスクなシーン(殺害方法など)も3ヶ所ほどあるが、どぎついものではないのでたぶん大丈夫。映画にストーリーの一貫性やメッセージ性を期待する人、一度設定の齟齬が気になるとそれが気になって仕方がないような人はやめておいた方がよさげ。そういうのを笑い飛ばせる度量が試される映画なのかもしれない。……1800円は正直高いよね。