人の「色」が見えるトツ子は、学校をやめたきみ、島暮らしのルイとともにバンドを組み、紆余曲折を経て学園祭でライブを行うことになる。
お話は非常にシンプルだし、鑑賞していて気分が下がりきることがない(ひどい鬱展開にはならない)、安心の作品。学園祭ライブシーンに関しては、曲も見せ方もよく、ここだけリピートで見たいなってなる。
しかし、減点法で細かい点をあげつらうと、わりと点数を削られる作品だとも思う。よくいえば「いい人揃い、ストレスフリー」だが、悪く言えば「あらゆるキャラが都合よく動く」。絵柄も含めて、全体的に現実感が漂うのだが、そこはかとなくファンタジー。
タイトルになっていて、トツ子の特徴でもある「色が見える」は、きみが青、ルイが緑、シスター日吉子はオレンジ、またルームメイトはそれぞれの色に見えていることが表現されているが、あまり生きた設定になっていない。宣伝で使われた「きみちゃんの色はすごくきれいで、すごくわくわくして」というフレーズは作中のトツ子のモノローグだが、そもそも、色が汚い人が出てこないじゃないですか本作。トツ子が修学旅行をサボってきみちゃんを部屋に泊めて怒られたときも、反省文と奉仕活動は課せられたけど、必要以上に怒る人は出てこない。日吉子先生含めて、シスターたちが最初から理解者的に描かれているので、「そんな中でライブを成功させてみせた」というようなギャップはない。単に、学生がライブしただけ。なにかもうちょっと凹みはあってもよかったのではないかと思うが、そこは山田尚子監督があえて排除した部分だと思うので、しょうがないな。
外泊の件および退学の件についてのおばあちゃんの反応は描写されていないが、描写しなくてもあのおばあちゃんなら「きみちゃんのしたいようにすればいい」と受け止めるだろうから、確かにいらんといえばいらん。事実、おしゃれ着でライブを見に来たのだから和解したのだとわかる。それでいい。
ルイくんのところも、ルイくん自身はすごく気を遣っているが、医師の道を諦めるわけじゃないのでお母さんが文句言ったりはしない。1回、バンドで演奏するだけだから、そりゃあね……。ルイくんに関しては、特に描写が限られていることもあって人となりの把握が難しいが、奉仕活動で1ヶ月間来られなかった2人に飛びついて喜んでみたり、普段はあの教会跡で音楽に打ち込んでいる感じとかから、かなり変わり者の子なのかもしれんなーと思った。でも、わざわざそれを明確にする必要はないので、削られている。作中で大事なのは、トツ子から見るとルイくんは緑色で、いい感じの色をした人なのだということだろう。
きみちゃんはルイくんのことを気にしている様子が、古本屋でちらっと描かれたが、本作から恋愛は排除されているし、ルイくんがソレなので進展はない。きみちゃんもその後、ルイくんを意識する描写はなかったと記憶する。最後、船で去るルイくんへの言葉が「がんばれ」なのがすごくよかった。告白でもされちゃあ台無しですからね……。
楽曲は、しろねこ堂の3曲が非常によかった。「水金地火木土天アーメン」とか天才か?ライブでヴォーカルが聞こえにくいのは環境再現なんだろう。聞きたければサントラを買えと。はい。エンディング主題歌は、そもそも個人的にMr.Childrenあんまり好きじゃないもので……せっかく作中バンドがいるなら、そのバンドの曲でええやろと思う気持ちもある。あるいは劇伴でも。ルイくんが作ってそうなテルミン曲とかでもええんよ。
でもまあ文句はいいつつも、ストレスフリーだから、引っかかることなく何度でも鑑賞できる映画なのはいいことだ。ルックバックはいい作品だが繰り返し見るのはつらい。